歌詞へ思考する.弍



朝来てもここに僕の机は無い
「遅刻をするな」と先生が頭を出席簿で叩く
あの教室の臭いが内臓にこびり付いて離れない
グシャグシャに塗りつぶされた絵画のように落ちていく

階段
「閉塞と罪悪感の海に沈む海月.ep」収録
2013

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実に歌詞らしくない歌詞である。

階段は2011年「浅はかに吠える」
を結成した時
佐々木大地の曲に初めて詞と歌をつけた曲だ。

曲自体は当初ポストロックのような印象
佐々木の「歌詞は語りがあるイメージ」
という話からメロディーを減らして物語を書くように作った。

結成初期はいわゆる純粋な激情系ハードコア、ポストハードコアを目指していたバンドだったが
私はそういったジャンルを知らなかった。
散々悩んだ末
舞台ミュージカルのような台詞をイメージして書き
今のような形になる。


4年後の2015年
ラジオドラマ仕立てのストーリーオケを作り
ライブ中に流しながらバック演奏をする
という実験を試みた。

物語は青年男性(声/Vo.内藤)と少年(声/Gt.佐々木)の会話で構成されている。

----------以下ドラマ台本


少年「それで?その後彼はどうなったの?」

男『いやこの話の続きは君が想像しているより愉快じゃない』

少年「でも気になるな
彼が死んだのか生きているのか」

(沈黙 ライターで火をつける音)

男『ほら、吸ってみろ!』

少年「嫌だよ…やめてくれよ」

男『ケッ
煙草も吸えない年のくせに。
君は自分が何者であるかなど考えた事もない。
同じ日々を繰り返す事を不思議に思わない。
そうしてまた言われるがままに制服を着て学校へ行く。
疑いもせず大人についていくしかない裏返しの魚と同じ目だ。』

少年「…」

男『わかるだろう?
後は沈んでいくだけだ…。』

(カラスの声)

少年「そろそろ行くよ」

男『行く必要などない』

少年「ダメだよ。行くよ。」

(腕を引っ張ったり揉める感じの音)

男『ああ。どうしても行くなら続きを教えてやろう。
あの日君は学校へは行かなかった
そうだちょうどこんな夕暮れ時までこの廃工場に隠れていた。
(学校のチャイム)
追いかけても追いかけても
気がついたら私はまた
あの階段…』(本編、演奏開始)

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階段という物語の主人公は
少年時代の自分と出会ってしまった青年男性だ。
見覚えのある少年を追いかけて階段を上がる間に忘れていた過去を思い出す。

心理学では嫌な事があった場所にもう一番行き、新しい良い思い出を作るとその嫌な場所をすっかり
楽しい場所に変える事ができるという。

男は
複雑な少年時代の気持ちのまま
大人にはならなかったが、
その場所を避けていた男のそばには
未だあの少年が寄り添っていたのだ。

男は自分のなかいにる少年の存在を受け入れる事で
ようやく本当の大人になった。

私の作詞のなかには
常にこの青年の姿がある。

自分自身と語り合う「階段」から
自分自身を見つめる
「彼の影」へと続いていく



Shin Naito